ビートルートジュースに含まれる硝酸塩は、運動パフォーマンスを少し改善する可能性があります。ただし「マラソンが必ず速くなる」とまでは言えません。効果が出た研究は運動時間や評価法がさまざまで、タイムトライアルでは有意差が出なかった統合結果もあります。
試すなら、ジュースの容量や赤さではなく、ラベルに書かれた硝酸塩(nitrate)のmgまたはmmolを確認するのが出発点です。Australian Institute of Sport(AIS)が紹介する研究上の典型例は6〜8 mmol(約350〜500 mg)を運動2〜3時間前ですが、これは万人への処方ではありません。練習で胃腸反応まで確かめる必要があります。

硝酸塩は何をしているのか
食事由来の硝酸塩(NO3−)の一部は、口腔内細菌によって亜硝酸塩へ変換され、さらに一酸化窒素(NO)の経路につながります。NOは血流調節、ミトコンドリア呼吸、筋収縮などに関わります。ビートルートだけでなく、ほうれん草やルッコラなどの葉物野菜も硝酸塩源です。
ただし、ここから「血流が良くなる=マラソンの記録が必ず伸びる」と直結させるのは早計です。機序があり得ることと、レース結果が改善することは別に検証する必要があります。
研究では何がわかっている?
2021年の系統的レビューとメタ解析は、健康な成人を対象にした73研究、計1,061人を含みました。硝酸塩は出力、疲労困憊までの時間、移動距離を改善しましたが、タイムトライアル成績と総仕事量には有意差がありませんでした。研究間の方法やアウトカムは不均一で、ランダム化手順の記載不足もあり、エビデンスの質は「非常に低い」から「中等度」と評価されています。
2025年のアンブレラレビューは20件の系統的レビュー/メタ解析を再統合しました。疲労困憊までの時間、総移動距離、筋持久力、ピークパワーなどでは改善が示された一方、すべてのパフォーマンス指標に効果があるわけではなく、既存レビューの方法論上の問題も指摘しました。著者らは、小規模研究、狭い運動課題、対象者や投与法のばらつきを限界に挙げています。
AISがまとめる実践情報では、効果が報告された代表的な場面は4〜30分のランニング/サイクリングや、高強度の間欠運動です。フルマラソンのような数時間の競技に、その結果をそのまま移せるとは限りません。
6〜8 mmolは何mg?
硝酸イオンNO3−の分子量は約62です。そのため、表示がmgの場合は次のように換算できます。
硝酸塩mg ÷ 62 = mmol
- 350 mg ÷ 62 = 約5.65 mmol
- 400 mg ÷ 62 = 約6.45 mmol
- 500 mg ÷ 62 = 約8.06 mmol
AISは、研究でよく使われる例として6〜8 mmol(約350〜500 mg)を運動2〜3時間前に摂る方法を紹介しています。また、10〜12 mmolを超えても6〜8 mmolより有効とは限らないとしています。量を増やせば直線的に効く、という意味ではありません。
ジュース何mLでは比較できない
野菜の硝酸塩濃度は、栽培条件、土壌、収穫後の時間などで変わります。自作ジュースや通常のビートルート食品は健康的な食事の一部になり得ますが、「70mLなら必ず400mg」のようには換算できません。急性の研究プロトコルと比較したい場合は、1回量あたりの硝酸塩mgまたはmmolが明記された表示が必要です。
一方で、表示量が検証されていないサプリもあります。競技者は、硝酸塩量だけでなく、第三者認証やアンチ・ドーピング上の混入リスクも確認してください。
試すならレースではなく練習から
- 目的を決める:マラソン本番の万能薬ではなく、特定の練習やレースで自分に合うかを確認する試行と考えます。
- ラベルを読む:ビートルート量ではなく、硝酸塩mgまたはmmolを確認します。
- 2〜3時間の余裕を置く:AISの典型例に合わせ、まず練習日にタイミングを試します。
- 胃腸症状を記録する:集中液は軽い胃腸不快感を起こすことがあります。
- 同時に変える要素を減らす:カフェイン、糖質、シューズなどを一度に変更すると、何が影響したのかわかりません。
口腔内細菌が硝酸塩から亜硝酸塩への変換に関わるため、AISは抗菌性マウスウォッシュがこの変換を弱める可能性に触れています。だからといって日常の歯科衛生をやめる話ではありません。試験前後の使い方が研究条件と異なる可能性を認識する、という実務上の注意です。
安全面で知っておくこと
- ビートルートで尿や便が一時的に赤〜ピンクになることがあります。
- 濃縮ジュースや多量摂取で、軽い胃腸不快感が出ることがあります。
- 慢性的な硝酸塩サプリ使用は十分に研究されていません。
- 硝酸塩(nitrate)と亜硝酸塩(nitrite)は別物です。AISは、工業・保存用途の硝酸塩塩類や亜硝酸塩を自己流で使わないよう注意しています。
- 持病がある、妊娠中、薬を使用中、または競技規定の確認が必要な場合は、医師やスポーツ栄養士に相談してください。
結論:有望だが、マラソンの保証ではない
ビートルート由来の硝酸塩には、特定の運動課題で小さな利益が出る可能性があります。しかし、数時間のマラソンのタイム改善を保証する証拠ではありません。試すなら、6〜8 mmol(約350〜500 mg)という研究上の典型例を「ラベルの読み方」として使い、レース前に練習で胃腸反応と実用性を確認してください。
ほかの補給も同時に整理するなら、カフェインの体重別計算と、マラソン中の糖質g/h計算も参照できます。
主な一次資料・レビュー
- Australian Institute of Sport: Dietary Nitrate / Beetroot Juice
- Gao et al. The effects of dietary nitrate supplementation on endurance exercise performance: systematic review and meta-analysis
- Poon et al. Dietary Nitrate Supplementation and Exercise Performance: umbrella review of 20 systematic reviews

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