結論から言うと、マラソン前や走行中に「痛み予防」の目的でNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を自己判断で飲むのは勧めにくい選択です。 走力を上げる確かな利益は示されておらず、長時間運動・発汗・水分バランスの変化が重なる場面では、急性腎障害や低ナトリウム血症との関連が疑われています。ただし、研究は限られており「飲めば必ず障害が起きる」とまでは言えません。
この記事は一般的な研究の整理で、個別の診断や処方変更ではありません。処方薬を自己判断で中止せず、持病や併用薬がある人は医師・薬剤師に「長時間のレースに出る」ことまで伝えて確認してください。

NSAIDsとは?アセトアミノフェンとは別の薬
NSAIDsにはイブプロフェン、ロキソプロフェン、ナプロキセンなどが含まれます。製品や剤形、用量で注意事項は異なります。アセトアミノフェンはNSAIDsではありませんが、だからといってレース時の「安全な代替」と決めつけることはできません。別の鎮痛薬への自己変更も、医師・薬剤師または各製品の説明書を確認する必要があります。
日本の公的な添付文書は、PMDAの医療用イブプロフェン情報などで確認できます。ただし、これは特定製品の情報であり、すべての市販薬に同じ用法・禁忌をそのまま当てはめるものではありません。
研究1:80kmレースでは急性腎障害が52%対34%
2017年の無作為化二重盲検試験は、80kmのウルトラマラソン参加者89人を、イブプロフェン400mgを4時間ごとに摂る群とプラセボ群に分けました。フィニッシュ時に研究定義上の急性腎障害(AKI)に該当したのは、イブプロフェン群52%、プラセボ群34%でした。オッズ比は2.1でしたが95%信頼区間は0.9〜5.1で、不確実性が大きい結果です。
重要な限界は、対象が砂漠環境を含む80kmレースであり、通常の都市型フルマラソンへそのまま当てはめられないことです。それでも「長時間走る最中の予防的な服用に、腎臓面の懸念がない」とは言い切れない根拠になります。
研究2:フルマラソン28人のナトリウム変化
2018年の観察研究では、データがそろったフルマラソン参加者28人のうち16人が当日にNSAIDsを使用していました。血清ナトリウムはNSAIDs使用群で平均2.1 mmol/L低下し、非使用群では平均2.3 mmol/L上昇しました。参加者数が少なく、無作為割り付けではないため、薬が原因だと断定はできません。
同研究では推定飲水量が多いほどフィニッシュ後のナトリウムが低い関係も示されました。低ナトリウム血症の中心的なリスクである過剰飲水を忘れず、発汗量と給水量の計算も「飲めるだけ飲む」指示ではないと理解する必要があります。
全体像:危険性は示唆、でも研究の確実性は低い
2024年のスコーピングレビューは、マラソン/ウルトラランニングのNSAIDs研究30件(無作為化試験4件を含む)を整理しました。急性腎障害、電解質、胃腸症状などに潜在的な関連はあるものの、各領域で一貫した統計学的関連が明確だったとは結論づけていません。つまり、リスクを無視できるのではなく、質の高い研究が不足している状態です。
一方、運動前NSAIDsの無作為化試験のメタ解析では、最大パフォーマンス、疲労までの時間、自己申告の痛みに有意な改善は確認されませんでした。研究条件はばらつきが大きいものの、「念のため飲めば速く走れる」という期待を支持する結果ではありません。
レース前に確認する3つの質問
- 薬がないとスタートできないほど痛いか。 その場合は、痛みを隠すより原因と出走可否の評価が先です。
- 腎臓病、胃潰瘍、喘息、心血管疾患、脱水リスク、他の薬との併用がないか。 これは例示で、禁忌や注意事項の全一覧ではありません。製品の説明書と医療者の判断を優先してください。
- 同じ成分や同系統の薬を重ねていないか。 風邪薬や複合鎮痛薬にも鎮痛成分が入ることがあります。商品名ではなく成分欄を確認します。
走行中・ゴール後に薬で隠さないサイン
強い局所痛、意識の混乱、繰り返す嘔吐、呼吸困難、極端に尿が少ない・濃い、黒い便や血便などがあれば、追加服用で様子を見ず、走行を中止して救護や医療機関へ相談してください。症状の組み合わせによって緊急度は変わります。
通常の筋肉痛まで毎回NSAIDsで抑える必要があるとは限りません。回復の目安はフルマラソン後にいつ走り始めるかの記事で、痛み、歩行、睡眠、全身症状を分けて整理しています。
まとめ
- 予防的NSAIDsに、走力を高める確かな利益は確認されていない。
- 腎障害や電解質異常との関連を示す研究はあるが、マラソン全般で因果関係が確定したわけではない。
- 「危険が証明されていない」ことは「安全が証明された」ことではない。
- 痛み止めが必要な状態なら、薬の選択より先に出走可否と痛みの原因を見直す。
研究・添付文書を2026年9月30日に確認。医薬品の注意事項は改訂されるため、服用時は手元の最新説明書を確認してください。

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