走っている最中の脇腹痛は、いわゆる「差し込み」であることがあります。 ただし、脇腹痛という言葉だけで原因を決めることはできません。まずはペースを落とすか歩いて、痛みが落ち着くか、ほかの症状がないかを確認してください。強い痛み・悪化する痛み・発熱・嘔吐・胸痛・失神・血便がある場合は、差し込みと自己判断して走り続けないことが大切です。
「ETAP」とは何か
運動中に起こる一過性の腹部痛は、研究では exercise-related transient abdominal pain(ETAP)と呼ばれます。典型例では局在した痛みとして感じられますが、これは診断名ではありません。2005年の14 km市民ランでは、回答した848人のうち27%がイベント中のETAPを報告し、ランナーでは30%、ウォーカーでは16%でした。痛みを経験した人の42%は走りに悪影響があったと答えています(Morton, Richards & Callister, 2005)。
よくあるからといって、すべてが同じ理由とは限りません。ETAPの機序には複数の仮説があり、単一の原因として確立しているわけではありません。急に初めて起きた痛み、同じ場所に残る痛み、安静でも続く痛みは「ランナーだから」の一言で片づけず、必要に応じて医療機関で相談してください。

走行中は「治す」より、安全に切り替える
- いったんペースを下げるか歩く。 痛みを押してインターバルや坂を続けない。
- 呼吸を楽に整える。 息を止めず、無理な腹圧やフォーム矯正をその場で試さない。
- 再開は症状で判断する。 軽くなっても再開で悪化する、範囲が広がる、吐き気やめまいを伴うなら中止する。
- 「いつもと違う」なら別扱いにする。 胸痛、呼吸困難、失神、発熱、嘔吐、血便、強く持続する腹痛は、走行を中止して医療機関へ。緊急性が疑われる症状では救急要請をためらわない。
次回は一度に一つだけ検証する
研究は「これをすれば必ず防げる」という処方箋ではありませんが、次回の計画に使える観察点はあります。前述の市民ラン研究では、走る人のうち運動1〜2時間前に体重あたりで多い量の食事をとった人でETAPが多くみられました。ただし、これは質問紙による関連で、特定の食品や個人に当てはまる因果を示すものではありません。
そこで、次のロング走やレースペース走では、変更を一つに絞ります。たとえば「開始2時間前に食べた総量」「直前にまとめて飲んだ量」「最初の15分の上げ方」のうち一つだけです。糖質補給そのものを悪者にしないでください。長時間走の補給は別の目的があるため、マラソン中の糖質補給の計算と切り分け、記録をもとに調整します。
「体幹が弱いから」とは言い切れない
965人の運動参加者を調べた横断研究では、ETAPはランニングでサイクリングより多く、年齢とともに頻度・重症度が低下しました(Morton & Callister, 2002)。別の50人のランナーの観察研究では、ETAPを経験しない群のほうが体幹機能テストの得点が高かったものの、これは「腹横筋を鍛えれば治る」ことを証明した介入試験ではありません(Mole, Bird & Fell, 2014)。
体幹トレーニングをするなら、脇腹痛の治療目的ではなく、普段の筋力・フォームづくりの一部として扱うのが安全です。痛みが出るたびに腹筋を増やして走行負荷まで上げると、何が効いたのか、何が悪化要因なのかも分からなくなります。
ランニングログに残す4項目
- 痛みが出た時刻・場所・強さ(0〜10など、いつも同じ尺度)
- 直前2〜3時間の食事と飲料の量、摂った時刻
- その日の強度、気温、坂、スタート直後のペース
- 歩行・減速でどう変わったか、ほかの症状の有無
この4項目が2〜3回分たまると、「ジェルそのもの」ではなく、量・タイミング・急なペース上げのどれを次に変えるべきか考えやすくなります。胸やけ、酸っぱいげっぷや吐き気が中心なら、ランニング中の逆流症状を記録する記事も参考になります。ただし、症状が繰り返す場合はログだけで長引かせず、医療機関へ相談してください。


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