REDs(スポーツにおける相対的エネルギー不足)は、女性だけの問題ではありません。男性ランナーにも起こりえます。ただし、疲労、体重、食事記録、月経の有無、あるいは1回の計算だけでREDsと自己診断することもできません。複数のサインを医師が確認し、ほかの原因を除外して評価するのが基本です。
この記事では、利用可能エネルギー(EA)の計算がなぜ目安にすぎないのか、ランナーが記録できる変化、専門家に相談するときに何を持っていくと役立つかを整理します。2026年10月1日時点の資料で確認しています。
REDsと「食べる量が少ない」は同じではない
REDsは、運動で使うエネルギーに対して摂取が不足する状態が続き、健康やパフォーマンスに問題が生じる複雑な症候群です。単に食事量が少なく見えることや、細身であることを指す言葉ではありません。意図的な減量だけでなく、練習量が増えたのに食事が追いつかない場合にも起こりえます。
IOCの2023年コンセンサスは、REDsが女性と男性の両方に関係し、骨、内分泌、免疫、代謝、胃腸、心理、心血管など複数の領域に影響しうると整理しています。一方で、単一の確定診断法はなく、症状ごとに別の原因を除外する必要があるとも明記しています。
日本スポーツ振興センターの国立スポーツ科学センター(JISS)のウエイトコントロールガイドも、RED-Sは男性にも起こりうること、気になる点があれば医師・スポーツ栄養士・トレーナーなどに相談することを案内しています。
利用可能エネルギー(EA)はどう計算する?
研究では、利用可能エネルギーを次のように表します。
EA =(1日の総エネルギー摂取量 − 運動によるエネルギー消費量)÷ 除脂肪量(kg)
たとえば、摂取2,800 kcal、運動消費900 kcal、除脂肪量50 kgなら、EAは 38 kcal/kg除脂肪量/日です。
(2,800 − 900) ÷ 50 = 38
しかし、家庭での摂取量と運動消費量は正確に測れません。仮に摂取量の見積もりが±300 kcal、運動消費が±200 kcalずれるだけで、同じ例は28〜48 kcal/kg除脂肪量/日の範囲になります。これは測定誤差を説明するための仮定で、あなたの誤差を示す数値ではありません。
JISS資料は健康な人の目安として45 kcal/kg除脂肪量/日以上を紹介していますが、IOCは現場でのEA測定が難しいことを強調しています。60人の競技志向の男性持久系選手を調べた横断研究では、平均EAが28.7 kcal/kg除脂肪量/日だった一方、主要なホルモン・骨指標は臨床範囲内で、女性研究から作られた30未満という基準を男性にそのまま使う限界が示されました。EAの数値だけで診断しない理由です。

ランナーが記録しておきたい変化
次のうち1つだけでREDsとは言えません。複数が重なった、長引いた、または練習量の増加・食事制限と同時に始まったときに、相談材料として記録します。
- 同じ練習に対する回復が遅くなり、パフォーマンスが停滞または低下した
- 骨ストレス障害や疲労骨折を繰り返す、骨の痛みが続く
- 月経周期が大きく変わった、または月経が止まった
- 男性を含め、性欲の低下や性機能の変化がある
- 感染症にかかりやすい、胃腸症状が続く、気分や集中力が変化した
- 意図しない体重変化、食事への強い不安、食行動の変化がある
疲労やペース低下には鉄不足、睡眠不足、感染症、甲状腺疾患、心理的ストレスなど別の原因もあります。鉄だけを疑う場合でも自己判断でサプリを始めず、ヘモグロビンとフェリチンの違いを整理した記事も参考にしてください。
男性ランナーにも起こる根拠はある?
ありますが、女性に比べ研究は少なく、同じ基準をそのまま当てはめられない点が重要です。日本人男性長距離ランナーを対象にしたパイロット研究は、エネルギー摂取不足と骨吸収・エネルギー代謝抑制の関連を検討しました。小規模な予備研究なので頻度や因果を確定するものではありませんが、「男性だから対象外」とは言えない根拠の一つです。
IOCのREDs CAT2は、問診、身体評価、必要に応じた血液検査や画像検査を組み合わせ、医師が多職種チームの情報を使って評価する設計です。2024年に報告された213人の国内〜世界レベル選手への初期適用研究では、リスクが高い群ほど一次指標が多く、骨ストレス障害とも関連しました。ただしオレンジ・赤群は20人と少なく、著者らも全競技・全レベルへの一般化に注意を求めています。
相談前に7日間だけ記録する
精密なEAを自力で算出するより、医療者やスポーツ栄養士が状況を再現できる記録のほうが役立つ場合があります。
- 練習:時間、強度、距離、休養日を記録する。
- 食事:量を無理に正確化せず、食事・間食・練習前後の補給時刻を記録する。
- 体調:睡眠、疲労、気分、胃腸症状、感染症、痛みを記録する。
- 競技特有の変化:月経、性欲、回復、パフォーマンスの変化を記録する。
- きっかけ:走行距離増加、食事制限、遠征、けが、環境変化が始まった日を付ける。
体重を毎日測ることが食行動や気分を悪化させる場合は、無理に追加しません。REDsの予防や治療は「もっと自己管理する」ことではなく、必要な支援につなぐことが目的です。
やってはいけない3つの近道
- 見た目で判断する:体格からエネルギー不足の有無は決められません。
- EAの1回計算で赤信号を付ける:摂取、消費、除脂肪量のすべてに誤差があります。
- サインを「練習が効いている証拠」にする:骨の痛み、月経変化、回復不良や気分の変化を無視して負荷を上げないでください。
結論
REDsは男性にも女性にも起こりえますが、1つの症状や数値で決める病名ではありません。EA計算は状況を考える入口にとどめ、サインの重なりと経時変化を記録し、医師やスポーツ栄養士などに相談する。それが、体重や見た目だけで判断するより安全で実用的です。

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