結論: マラソンのペース配分は、ほとんどの市民ランナーにとって「大きなネガティブスプリット」を無理に狙うより、前半を少し抑え、後半の失速を最小化するほぼイーブンペースのほうが再現しやすいです。対象読者: フルマラソン本番で前半のオーバーペースや30km以降の大失速を避けたい日本の市民ランナーに向けてまとめました。
- 2024年の系統的レビューでは、マラソン研究の中で最も多く報告されていたのは positive pacing、つまり後半に少しずつ落ちる配分でした
- 2023年12月21日公開の Vienna City Marathon の大規模研究では、全パフォーマンス群で positive pacing が見られ、速いランナーほど変動が小さくなっていました
- 2020年8月の研究では、長距離レース経験と週間走行量が多いランナーほど、後半のペース低下が小さい傾向でした
ネガティブスプリットは魅力的な言葉ですが、実戦では「後半に上げる」ことより、「前半で削りすぎない」ことのほうが重要です。ここを誤ると、理想の戦略を追ったつもりが、実際には前半で借金を作るだけになります。
結論: 市民ランナーの正解は「大きなネガティブスプリット」より失速最小化

事実: 2024年の系統的レビューでは、2013年から2024年までの39研究が整理され、マラソン競技で最も多く報告されていたのは positive pacing でした。negative pacing も存在しますが、全体としては少数派です。さらに、2023年12月21日に公表された Vienna City Marathon の 208,760 人データでも、男女とも全パフォーマンス群で後半にスピードが落ちる positive pacing が観察されました。
事実: 同じ Vienna の研究では、速いランナーほど absolute change of speed が小さく、「速い人ほど後半も崩れにくい」傾向が明確でした。2018年3月の masters athletes 31,762人研究でも、高パフォーマンス群ほど pace range が小さく、女性は男性より変動がやや小さいと報告されています。
推測: 市民ランナーにとっての現実解は、ハーフ通過で大きく貯金を作ることではなく、5kmまでは軽く抑え、その後もフォームと呼吸を崩さず、35km以降の落ち幅を小さくすることです。結果として小さな negative split になることはありますが、狙うべきは「後半の加速」そのものではなく「前半の暴走回避」です。
| 配分 | 特徴 | 市民ランナーとの相性 |
|---|---|---|
| positive pacing | 前半が速く、後半で落ちる | 最も起きやすいが、落ち幅が大きいと失敗になりやすい |
| even pacing | 全体をほぼ同じペースで進める | 再現性が高く、多くの市民ランナーにとって現実的 |
| negative split | 後半が前半より速い | 理想形ではあるが、序盤を抑えきれないと再現が難しい |
研究が示す、速いランナーほどペース変動が小さい理由
多くのランナーは後半に落ちる
事実: 2023年の Vienna 研究では、マラソンの全群で positive pacing が見られました。2024年レビューでも、positive pacing を報告した研究が最も多く、ネガティブスプリットは「存在するが主流ではない」と整理されています。
推測: これは市民ランナーが弱いからではなく、42.195km という距離そのものが難しいからです。気温、補給、向かい風、アップダウン、集団の流れだけで、後半の数秒/km は簡単に削られます。
速いランナーは前半で使いすぎない
事実: 2018年3月発表の Breen らの研究では、31,762人の masters marathoners のうち、高パフォーマンス群ほど pace range が小さく、低パフォーマンス群ほどばらつきが大きくなりました。つまり、速さの差は単純な脚力だけでなく、どれだけ一定に近く走れたかとも結びついています。
推測: 市民ランナーが序盤の混雑や応援でテンションを上げすぎると、脚より先にエネルギーと体温管理が崩れます。前半 10km の数秒オーバーは小さく見えても、30km以降では大きなツケになります。
経験と週間走行量が後半の落ち幅を減らす
事実: 2020年8月の Swain らの研究では、2017年のマラソンを走ったレクリエーショナルランナー 139 人を分析し、長距離レース経験や週間走行量が大きいほど、前半と後半のペース差が小さくなりました。論文中でも、even pacing は速い完走タイムと関連するとされています。
推測: レース経験が少ない人ほど、レース本番の高揚で「今日は行ける」と感じやすいです。だからこそ、経験の少ない市民ランナーほど、攻める戦略よりも、序盤の上限を事前に決める戦略が効きやすいです。
市民ランナー向け、失敗しにくいマラソンのペース配分

前提: ここからは研究の一般傾向を、市民ランナー向けの実践に落とした提案です。コース高低差、気温、補給計画、目標タイムによって調整は必要です。
基本方針
- スタートから5kmは目標ペースより 5〜10 秒/km 遅く入る
- 5〜25km は目標ペース前後で淡々と刻む
- 25〜35km は上げるより維持を優先する
- 35km以降に余裕があれば、初めて少しだけ上げる
推測: たとえばサブ4狙いで平均 5分41秒/km を目安にするなら、最初の5kmは 5分45〜50秒/km で入り、その後に 5分40秒前後へ寄せるほうが、いきなり 5分35秒/km で飛ばすより成功率は高いです。ネガティブスプリットを狙う場合も、前半を極端に遅くする必要はありません。「抑える」は「置いていかれる」ではなく、「余計に突っ込まない」程度で十分です。
ペース配分を崩しにくくするコツ
- ラップではなく 5km ごとの平均で判断し、細かい上下に反応しすぎない
- 下りで貯金を作ろうとしない
- 給水直後の立て直しで無理にペースを戻しすぎない
- 30km前後で「維持できていれば成功」と考える
事実: ペース研究の多くは、一定に近い配分が高成績と結びつくことを示しています。
推測: 実戦で一番効くのは、「後半に上げる」意思より、「前半の上限を守る」意思です。ガーミンやペーサーは便利ですが、最後にブレーキを踏めるかどうかは本人次第です。
ネガティブスプリット狙いで失敗しやすい4つのパターン
- 前半を抑えるつもりが、集団に流されて予定より速く入る
- ハーフ通過の貯金を気にしすぎて、25kmまでに脚を使い切る
- 補給計画が曖昧で、後半の失速を気合いで埋めようとする
- 暑さや向かい風が強い日に、晴天用のペース設定をそのまま使う
事実: 観察研究では、コースや環境条件が違っても、後半の落ち幅が小さいランナーほど成績が良い傾向が繰り返し見られます。
推測: 失敗を避ける近道は、理想の後半加速を夢見ることではなく、失速要因を前もって消すことです。補給、気温、集団、下りの使い方まで含めてペース戦略と考えるほうが現実的です。
研究の限界
ここは重要です。今回の根拠の多くは観察研究であり、実験室でランナーを同条件にそろえて比べたものではありません。大会によってコース高低差、天候、給水環境、ペーサーの有無が違います。また、mass race の 5km split では、細かい上り下りや集団の動きは十分に捉えきれません。したがって、「ネガティブスプリットが絶対正解」とも、「全員イーブンで走るべき」とも断定はできません。現実には、目標タイム、暑さ耐性、補給の得意不得意、コース形状まで含めて調整が必要です。
FAQ
マラソンでネガティブスプリットは本当に必要ですか?
必須ではありません。研究では、速いランナーほどペース変動が小さい傾向はありますが、全体では positive pacing のほうが一般的です。市民ランナーにとっては、ネガティブスプリットそのものより、後半の失速を小さくする配分を作るほうが優先順位は高いです。
最初の5kmはどれくらい抑えるべきですか?
目安は目標ペースより 5〜10 秒/km 遅い程度です。あまり遅すぎると後半で取り返す必要が生まれ、逆にリスクが上がります。最初の数kmは「楽すぎる」くらいでちょうど良いことが多いです。
サブ4狙いでもイーブンペースが良いですか?
はい、多くの場合はイーブンに近い配分が現実的です。序盤だけ少し抑えて、中盤を目標ペースで進め、35km以降に余裕があれば少し上げる設計が合わせやすいです。大幅なネガティブスプリットは、経験と脚力がないと再現が難しいです。
要点まとめ
- マラソンではネガティブスプリットは理想形の1つだが、研究全体では positive pacing の報告が多い
- 速いランナーほどペース変動が小さく、後半の失速を抑えている
- 市民ランナーの現実解は、前半を少し抑えたほぼイーブンペース
- 経験と週間走行量が増えるほど、後半の落ち幅は小さくなりやすい
- 狙うべきは「後半で無理に上げること」ではなく、「前半で使いすぎないこと」
マラソンのペース配分で迷ったら、派手な逆転劇を狙うより、最後まで崩れない設計を選ぶほうが結果につながりやすいです。市民ランナーに必要なのは勇気ある加速より、勇気ある我慢です。

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